-
概要:
オンボロ車でふらりと牧場に乗りこんできたカウガール、友人の姉と恋におちる15歳の少年、泥棒を殺害した移民と奇術師の友情、トラックが故障してひまわり畑で立ち往生する兄妹
--- 表舞台とは無縁の彼らにも人生の落とし穴があり、喜びと悲しみの溢れる一瞬がある。孤独、挫折、そして愛をかみしめながら生きる人々の姿を、シンプルな文章と独特のリズムで丁寧に描いた短篇12作。
感想: ★★★ 本書には、広大なアメリカに点在する、名も無き人々の人生が描き出されている。 孤独と挫折を噛み締めながら生きる彼らの人生は、真面目なんだけれどもどこかがズレていて、それがおかしくもあり、哀しくも見える。読了後に少々すっきりしない感じを受けた作品が多い気もするが、それはおそらく、読者の想像力に任せた部分が大きいのだろう。 悪い作品集ではないが、キラリと光る個性のようなものを感じることは出来なかったように思う。いろんな人生があるんだナァ、という良い勉強にはなりました。
ISBN 4102150617 / 新潮文庫 ¥590 / 2005.12.23 fin. No.030 ▲SKIP TO TOP
巡礼者たち エリザベス・ギルバート (アメリカ)
小指の痛み 渡辺淳一 (日本)
-
概要:
これでこの左手の小指とはお別れだ --- 炭鉱で働く甲造が下した決断、しかしその代償はあまりに大きかった・・・。
北の大地を舞台にした表題作をはじめ、医学に材をとった 『乳房切断』 『脳死人間』、さらには名篇の誉れ高い 『酔いどれ天使』 など六篇を収める。
人間の哀しき生と死、愛と性を描き続ける著者の原点といえる短篇集。
感想: ★★★ 表題作 『小指のいたみ』 をはじめ、『なんだかナァ』 という読了感が残ってしまう作品が多かったように思います。 それ は決して文章表現やストーリーテラーとしての部分ではありません。 こう、なんていうか・・・やっと気持ちの乗ってきたときに、ふと物語が完結してしまったような・・・ そんな感じを受けました。 『酔いどれ天使』 や 『乳房切断』 は途中で物語の先行きが読めてしまったのが少し残念。 『脳死人間』 は生と死という境目を、あらためて考えさせられた作品でした。 医学は一種の法律なのですね・・・ ( ̄Λ ̄)ゞ うむむナットク
ISBN 4167145243 / 文春文庫 ¥448 / 2005.12.21 fin. No.029 ▲SKIP TO TOP
天に遊ぶ 吉村昭 (日本)
-
概要:
見合いの席、美しくつつましい女性に男は魅せられた。ふたりの交際をあたたかく見守る周囲をよそに、男は彼女との結婚に踏みきれない胸中を語りはじめる。
男は、独り暮らしの彼女の居宅に招かれたのだった。しかし、そこで彼が目撃したものは・・・(「同居」)。
日常生活の劇的な一瞬を切り取ることで、言葉には出来ない微妙な人間心理を浮き彫りにする、まさに名人芸の掌編小説21編。
感想: ★★ 場所の設定や風景などに、昭和の空気を感じさせますね。ん?と首を傾げてしまうような終わり方をしている話が多々ありましたが、これだけ短い話ともなると仕方がないのかな・・・? 全体的に暗い話が多く、例えラストがハッピーエンドだとしても、なぜだか暗い気持ちになってしまいます。 まあ、そういう気分を味わいたい人にはオススメですかね。
ISBN 4101117454 / 新潮文庫 ¥400 / No.028 ▲SKIP TO TOP
溺レル 川上弘美 (日本)
-
概要:
二人で何本も徳利を空にして、ゆらゆらと並んで歩く暗い夜の情景---「さやさや」。
ちょっとだめな男とアイヨクにオボレ、どこまでも逃げる旅---「溺レる」。
もっと深い仲になりたいのに、ぬらくらとすり抜ける男---「七面鳥が」。
恋愛の過ぎて行く一瞬を惜しむ、傑作短篇集。女流文学賞・伊藤整文学賞受賞。
感想: ★★★★★ 一人でいるときの孤独は淋しいけれど、二人一緒にいるときの孤独もやはり淋しい。 同じ 『さみしい』 でも、少し違う。こういうことを考える人が他にもいたんだナァ、と少し安心。 思ってはいても、なかなか言葉には表せないのが人間なのですね・・・ などと再認識させてくれた作品集。 この作品集は他の物に比べ、そんなにほのぼのするような内容ではないのに、何故かほのぼの・・・。 それがいわゆる川上ワールド。この独特な雰囲気がいいですね。日常を忘れて 『溺レる』 ことが出来ました (笑)
ISBN 4167631024 / 文春文庫 ¥400 / No.027 ▲SKIP TO TOP
五瓣の椿 山本周五郎 (日本)
-
概要:
『この世には御定法で罰することのできない罪がある』 最愛の父が死んだ夜、自分が父の実子ではなく不義の子なのを知ったおしのは、淫蕩な母とその相手の男たちを、自らの手で裁くことを決心する。
おしのは、母を殺し、母の男たちの胸につぎつぎに銀の釵を打ちこみ、その枕もとに赤い山椿の花びらを残してゆく・・・。
ミステリー仕立で、法と人間の掟の問題を鋭くついた異色の長編。
感想: ★★★★ 法律とは人間を守るために存在するものなのに、その法律で助けられない人々もいる。 そんな時は失いがたい人間の 『掟』 を守り、『人と人の絆』 を大切にする・・・。 昔からギリシャ悲劇などでも挙げられてきた主題、『法』 と 『掟』。 そんな難しいテーマが、ミステリー仕立で分かりやすく表現されています。 全体的な文章構成は実に見事!退屈することなく、最後まで一気に読めた作品でした。
ISBN 4101134057 / 新潮文庫 ¥514 / 2005.04.20 fin. No.026 ▲SKIP TO TOP
ジョニーは戦場へ行った ドルトン・トランボ (アメリカ)
-
概要:
さようなら母さん。泣かないでカリーン。ぼくは行きたくない。
本当はここにとどまって、君といっしょに働いて、子どもをつくり、君を愛したい---。
異国の地の戦場で砲弾にあたり目、鼻、口、耳をそぎとられ、両腕両足まで切断された青年ジョニーの心の旅を描く問題作。
平和への思いをこめられて読み継がれた反戦文学の金字塔。
感想: ★★★★ 途中まではテンポ良く読めたのですが、ラストだけがどうも納得イカズ・・・。 反戦の精神を意識しすぎ・・・ですかね?もっと文学として意識してれば、別のエンディングが出来ていたのではないかと思います。 ここまで頑張ったのだから、狂ってしまうのはもう少し後にして欲しかった (ρ_;)
ISBN 4042292011 / 角川文庫 ¥476 / 2005.04.04 fin. No.025 ▲SKIP TO TOP
小川未明童話集 小川未明 (日本)
-
概要:
人間はこの世の中で一番やさしいものだと聞いている --- 北海の海底に一人寂しく過ごした人魚が、夢と希望を託して人間界に産み捨てた美しい娘の運命を描く 『赤いろうそくと人魚』。
ある夜中、おばあさんの家を風変わりなお客が訪れる 『月夜と眼鏡』。
旅人を眠らせてしまう不思議な街をめぐる少年の冒険 『眠い町』 等全25編を収録。
グリム、アンデルセンにも比肩する児童文学の金字塔。
感想: ★★★★ これらの物語が、今から50年以上も前に書かれていたなんて・・・感嘆の溜め息が漏れてしまいます。 暗く切ない物語も少なくはないのですが・・・読後には、凡てのものに愛情を感じ、優しい心持ちになっている自分に気付くと思います。 そんな、美しい児童文学の集大成です。
ISBN 4101100012 / 新潮文庫 ¥438 / 2005.03.23 fin. No.024 ▲SKIP TO TOP
人体模型の夜 中島らも (日本)
-
概要:
一人の少年が 「首屋敷」 と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。
その胸元に耳を押し当てて聞いた、幻妖と畏怖の12の物語。
18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声の正体は (耳飢え)。
人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密 (膝)。
眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。
感想: ★★★ これらの話は、すべて人間のエゴによって引き起こされた怖い出来事。 ホラーの要素をふんだんに含んだオムニバスなのですが、ただ怖いだけではなく、ユーモアが含まれているのが救いですね。 幽霊や妖怪のたぐいではなく、世の中で一番怖いのは 『人間』 なんですねぇ・・・ ちょっと納得 (;´▽`A``
ISBN 4087484033 / 集英社文庫 ¥476 / 2005.03.08 fin. No.023 ▲SKIP TO TOP
にわとりのジョナサン S・ワインスタイン/H・アルブレヒト (アメリカ)
-
概要:
人間に喰われるのをただ待つだけの一生なんて・・・。
人間どもの迫害に対し、にわとりの開放に決起したジョナサン。
フライド・チキン店になぐり込み、養鶏場を占拠し、自由と平和をかかげてニューヨークを飛ぶ、滑稽だが偉大なる戦士。
奇想天外、抱腹絶倒、青島幸男の創作翻訳によるパロディ小説の決定版。
感想: ★★★ 皆様ご存知! 『カモメのジョナサン』 のパロディです。 人間に食べられるために生み出されたはずのニワトリたちが、必死で人間たちへ抵抗する姿を描くドタバタ劇。 現代の人間社会にも通ずるところがあり、『現状の道理や倫理に縛られていていいの?』 という問題提起に役立ってくれる作品ではないでしょうか。
ISBN 4766901460 / 勁文社文庫 ¥370 / No.022 ▲SKIP TO TOP
ねじのかいてん 椎名誠 (日本)
-
概要:
囚われて移動波型螺旋屈曲穿孔簡易操作機を研究する私の周りには、飛翔流体力学や鼠櫓やカナカ族の交脚歩行やスンダニア語や遺伝子撹拌工学やら最先端技術の研究者がいて、1人ずついなくなる・・・。
デビュー10年目の記念すべき10冊目。小説家椎名誠的感覚あふれる9つの短編をまとめたおまちかねの1冊!!
感想: ★★★★ この人、すごく面白い! 『ヘンリー・ジェームズの名作と同タイトル』 という理由だけで、あまり興味のなかった 『SF』 という分野についつい手を出してしまったワタクシではありますが、この作品は実にハマりました! なんと言うか・・・肉体派? パワー溢れる文章構成、勢いのある文体・・・とてもたくさんの元気を分けていただきました! ちなみに、『パンツをはいたウルトラマン』 はカフカの 『変身』 の爆笑ドタバタ版ですかネ?(笑)
ISBN 4061850423 / 講談社文庫 ¥428 / 2005.03.08 fin. No.021 ▲SKIP TO TOP